【第19話】脚質と馬場状態の適性は血統で決まる


今日の競馬は雨でコースがびしょびしょだ。寒いし、すべるし、馬も騎手も大変だろうなー。

・・・おいおい、ちょっとまて、ちょっとまて。『週末の天気が荒れて欲しいと願うのは、穴狙いの競馬好きだけ』競馬の伝道師ODINです。

あーODINさん。こういう天気が悪い日はレースが荒れやすいって、本当ですか?

一概には言えないが、確かに晴天の日と比べると、実力差は出にくいと言われている。悪条件の方が能力を出しやすい馬もいるし、馬場状態によって走る戦略が変わる馬もいる

競馬新聞にも、「先行・逃げ切り」だの「不良場」など色々載ってます。馬によってレース環境の得意不得意がある、ということですね。

・・・馬だけではなく、騎手や調教師にも関係する話だ。では、今回は「脚質」と「馬場状態」について解説しよう。レースを読む上で、とても重要な要素の一つだ。


競走馬の脚質(きゃくしつ)とは

脚質の違い

脚質とは、レースにおける走行の方法や位置取りのことで、主には「逃げ」「先行」「差し」「追い込み」の4種類に分類されます。

馬は、他の馬を追走する習性があるため、レース中は縦長の展開になることが一般的です。そのため、走行中の位置取りがレース展開において非常に重要であり、馬の性格や能力によって得意不得意が分かれます

通常であれば、得意の脚質の位置取りでレースをすることが望ましいですが、レース展開やコース状態、他の馬の得意不得意によって、その馬が苦手とする位置取りにあえて挑戦することもしばしば行われます。

逃げ

競走開始直後から先頭に立ち、そのままゴールインすることを目指す走行方法です。

逃げ戦法を用いて、先頭を譲らずにそのまま先頭でゴールすることを「逃げ切り」、2着馬を大きく引き離してゴールすることを「大逃げ」、道中で抜かれて1着を取れなかったことを「逃げつぶれ」、逃げの戦法を多用する馬を「逃げ馬」と言います。

馬の適性 他の馬より前に出ようとする闘争心の強い馬、気が弱く馬群の中でレースをするのを嫌う馬
馬の能力 ゲート出の上手さ、スタート直後のスピード、レース前半からある程度のスピードで走り続ける瞬発力
メリット 最短最良の走路を走ることができる
ディメリット 他の競走馬から目標にされやすい、空気抵抗を他の馬より受ける
代表馬 テイエムプリキュア、ダイワスカーレット、キタサンブラック、サイレンススズカ、アドマイヤメイン、サニーブライアンなど

先行

逃げ馬の直後の位置でレースを進める走行方向です。一般的にディメリットが少なく、最も実力を反映しやすい戦法と言われています。

先行の戦法を多用する馬を「先行馬」と言います。

馬の適性 レースの要所で反応よく前方へ進出する気性がある馬、馬群の中に入っても怖がらない馬
馬の能力 後方からの追撃を凌ぐ脚力、スタート直後のスピード
メリット 最短最良の走路を走ることができる
ディメリット 逃げ馬がいなかった場合に序盤から先頭になってしまう
代表馬 シンザン、シンボリルドルフ、ビワハヤヒデ、タイキシャトル、タップダンスシチー、エルコンドルパサー、ダイワメジャー、ジェンティルドンナなど

差し

レース前半は馬群の中ほどから後方を進み、第4コーナー付近で前方への進出を開始し、ゴール手前で前を進む馬を一気に抜き去る走行方法です。

差しの戦法を多用する馬を「差し馬」と言います。なお、前方の馬を追い抜くことを「差す」、追い抜いて勝利することを「差しきる」と言いますが、これは差し馬のみに用いられる言葉ではありません。

馬の適性 馬群の中に入っても怖がらない馬、前の馬が巻き上げた砂などを浴びても嫌がらない気性の馬
馬の能力 レース終盤での瞬発力
メリット 走りやすい最後の直線で力を発揮できる
ディメリット 全体がスローペースで進むと力を発揮しにくい、アウトコースでの走行が中心
代表馬 ナリタブライアン、エアグルーヴ、ステイゴールド、スペシャルウィーク、グラスワンダー、シンボリクリスエス、ウオッカ、オルフェーヴル、ロードカナロア、ジャスタウェイ、リスグラシューなど

追い込み

レース前半は馬群の後方に控え、最後の直線で瞬発力を発揮する走行方法です。レース展開によって受けるメリット、ディメリットの度合いが最も激しいと言われています。

追い込みの戦法を多用する馬を「追い込み馬」と言います。なお、ゴール前の直線での馬の脚力のことを「末脚(すえあし)」、末脚を十分に使えなかった馬を「脚を余す」と言います。また、差し馬や追い込み馬が最終コーナーから一気に前方の馬をコースの外側を通って抜いていくことを、「まくりをかける(まくる)」と言います。

馬の適性 馬群の中に入っても怖がらない馬、先に行きたがらないのんびりとした性格の馬
馬の能力 レース終盤での瞬発力、長距離でも走り切れるスタミナ
メリット 走りやすい最後の直線で力を発揮できる
ディメリット 全体がスローペースで進むと力を発揮しにくい、アウトコースでの走行が中心、馬群が壁となって突き進めない場合がある
代表馬 ミスターシービー、タマモクロス、ヒシアマゾン、デュランダル、スイープトウショウ、ディープインパクト、ドリームジャーニー、オウケンブルースリ、ブエナビスタ、ゴールドシップなど

極端な脚質のレース事例

大逃げ馬

追い込み馬


競馬場の馬場状態(ばばじょうたい)とは

馬場状態

馬場状態とは、レースコース(本馬場)の地面の状態を示す言葉です。

良(りょう)」を基本状態として、降雨や降雪の場合に、地面の含水率の上昇に伴って「稍重(ややおも)」「重(おも)」「不良(ふりょう)」と変化していきます。

中央競馬、地方競馬ともに同様の表記で示されます。また、「ばんえい競馬」では馬場状態を含水率の数値そのもので発表しています。

含水率の測定方法

含水率とは、馬場から採取した試料に含まれている水分の割合です。数値が高いほど、湿っていくことになります。

含水率の測定は、馬場担当者が1日に数回行います。雨が降って「良」から「重」へ悪化することも、雨がやんで「重」から「良」へ回復することもあります。天候が変化するたびに測定され、馬場状態が変化した場合には、都度アナウンスされます

馬場状態の区分設定

馬場状態の区分設定は、含水率によって明確に決めらていますが、数字は競馬場によって異なります。おおよその判断基準は、以下の通りです。

馬場状態 芝コース ダートコース
踏みしめた際、馬場の表面はほとんど変化しない状態。 砂を握った際、固まらない状態。または固まっても、すぐに崩れる状態。
稍重 踏みしめた際、水は染み出ないが、馬場の表面がややへこむ状態。 踏みしめた際、水は染み出ないが、砂を握ると団子状に固まる状態。
表面に水は浮いていないが、踏みしめると水が染み出る状態。 表面に水は浮いていないが、踏みしめると水が染み出る状態。
不良 表面や足跡に水が浮いている状態。 表面や足跡に水が浮いている状態。

芝コースでの変化

「良」「稍重」の範囲では大きな負担もなく走りやすい状態です。 含水率が高まり、芝がぬかるんで滑りやすい状態である「重」「不良」と変化すると、破タイムが遅くなる傾向があります。

現在の芝コースは、排水性が高いため、多少の雨ではコース上に水がたまってしまうことはありません。そのため、相当な量の水を吸って重くならないと、「重」にはなりません。

ダートコースでの変化

芝コースと異なり、含水率が高まり、地面が固くなった状態である「稍重」や「重」と変化すると、走破タイムは速くなる傾向にあります。

「良」の場合、地面が柔らかいため、体重が軽い馬や力の弱い馬はしっかりと踏み込めず力が出せない場合があります。そのため、馬体が大きく力のある馬が有利となります。

ダートコースが乾いてきた場合、粉塵が舞うのを防止するため、散水車によって水が撒かれることがありますが、含水率には大した影響はありません。


なるほどー。レースの環境によって、求められる資質や能力が違うのは分かりました。これって、その馬の育った環境によるものなんでしょうか?

もちろん、これまでの訓練やレースでの経験によって出来上がっていくものだが、先天的に決まっている例も沢山ある。つまり、血統によって得意不得意が決まるということだ。

つまり、お父さん、お母さんの得意不得意を受け継ぐということですか?

そうだ。特にお父さんの能力を色濃く受け継ぐ。スピードやスタミナといった身体的能力よりも、むしろ脚質や馬場状態の適性の方が、反映されやすい。競走馬の血統を重要視する予想師は、絶対にチェックするポイントだ。

ブラッドスポーツ」と呼ばれる競馬ならではの面白さですね!

よく知ってるな。・・・しかし、現代の「ブラッドスポーツ」は、「競走馬の血統」ではなく、「動物同士の決闘」を意味する方が一般的だから、注意が必要だ。後者は、18禁じゃ済まされないくらいのやばいやつだ。

「動物同士の決闘」?中世のコロシアムで行われるような怖いやつですか?確かに、イメージが全然違う・・・。


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