【第9話】生産牧場から始まる競走馬の義務教育


このレースはデビューの馬しか走らない「新馬戦」か。初々しい感じはするけど、みんな堂々と立派に走ってるなー。

・・・おいおい、ちょっとまて、ちょっとまて。『T.M.Revolutionをテイエムレボリューションと読んでしまいます』競馬の伝道師ODINです。

出ましたね、ODINさん。馬って2歳でも、立派なプロですよね。人間で言うと何歳くらいなんでしょう?

馬の平均寿命は30歳~40歳くらい。しかし、競走馬としての現役生活が2歳~10歳くらいであることを踏まえると、馬の2歳は、人間高校生くらいの年齢と言われている。

なるほど。丁度義務教育が終わるころですね。ということは、馬はデビューするまでの2年間が小学生、中学生なんですね。どんな学生生活を送っていたんでしょう?

競走馬は、産まれてまもなくレースに勝つための訓練が始まる。1秒でも速く走るための専門的な教育プログラムで、正に英才教育と言える。人間に例えても、漫画の世界にしか出てこないくらいの徹底ぶりだ。

サンターナ1

そう聞くと、なんだか可哀そうな気もします。ペット感覚で気軽に付き合うわけにはいかないんですね。

多くの人々の夢と希望を背負う競走馬の宿命だな。トイレだけ覚えれば何とかなるイヌ・ネコとは、訳が違う。

・・・というわけで、今回は競走馬が幼少期に過ごす生産牧場育成牧場について、解説しよう。


生産牧場と育成牧場の違い

生産牧場と育成牧場

生産牧場とは

生産牧場は、競走馬の「繁殖」を中心に行う牧場です。牝馬(母親)を飼養管理し、種付け、妊娠、出産を経て、生まれた子馬が離乳するまで愛情を持って育て、次の育成牧場へと旅立たせる役割を担います。人間で言えば、病院、保育園、幼稚園を兼ねるような施設です。

育成牧場とは

育成牧場は、競走馬をレースで走れるように訓練するための牧場です。若馬(1歳馬)に、鞍(くら)をつけ人を乗せるという基礎訓練から始め、競走馬としてレース距離を走破するところまで段階を追って訓練します。競走馬としての能力を引きだす役割を担っており、人間でいば、小中一貫校のような施設です。


生産牧場の具体的な業務

生産牧場の業務

出産前の母馬の管理(冬~春)

母馬の乳房の状態をよく観察して出産に備えます。難産を予防するために、分娩の1ヶ月ほど前からウォーキングマシンなどで運動不足を解消したり、分娩の直前には体に異常がないかしっかりと監視します。なお、母馬の妊娠期間は約330日で、毎年3月~5月に出産します。

出産後の子馬の管理(春~夏)

生後しばらくは健康状態をよく観察します。子馬の成長には授乳、睡眠、運動の3つが重要であり、ストレスや体調の変化に注意をしながら、放牧と休息を繰り返します。

牧草の収穫(夏)

冬期の飼料として不可欠となる乾牧草の収穫は、牧場にとって重要な仕事です。刈り取りから乾燥・収穫の他、掃除や草刈などの放牧地の管理、土壌の改良や草種の選定なども行います。

子馬の引き馬(夏~秋)

「引き馬」とは、人間が馬の手綱を引いて歩くことであり、「人馬の信頼関係」や「人が馬のリーダーとなること」を教える有効な手段です。人の指示に従って歩くことと、子馬自身のバランスで歩くことの2点をしっかりと理解させます。

セリ市場への上場(夏~冬)

競り市に上場させ、馬主へ販売します。競り市は0歳、1歳、2歳と市場は様々で、生産牧場にとっての最大の収入源となります。


育成牧場の具体的な業務

育成牧場の業務

牧草の収穫(夏~秋)

春から秋にかけて、馬が放牧中に自由採食する放牧草は、競走馬としての健全な成長に不可欠です。その他、掃除や草刈などの放牧地の管理、土壌の改良や草種の選定なども行います。

集団放牧(夏~秋)

1歳馬たちを広い放牧地で集団管理します。この時期に牧草をしっかり食べて、十分な運動量を確保することで、その後のトレーニングに向けた体力作りを行います。病気や怪我、太りすぎや栄養不足などをチェックするのも重要な仕事です。

騎乗馴致(秋~冬)

「騎乗馴致(きじょうじゅんち)」とは、競走馬として扱われることに馬を慣れさせることです。はじめて人が騎乗できるようにするこの過程は、育成牧場の中でもっとも重要なステップで、実際の騎乗や調教の他、競り市での立ち振る舞いなどの基本的な教育が行われます。

関係者への報告対応(冬~春)

馬主や調教師に対し、調教進度や体型、性格、疾病などの個体情報を随時報告します。
また突然の訪問に備えて、展示手順の整備や場内美化を行うことも大切な業務です。

卒業管理(春~夏)

スピート調教やゲート練習など、デビューに向けた最後の仕上げ行います。仕上がりの早い馬は、6月から始まる新馬戦に向けてトレーニングセンターや競馬場などに移動します。


生産牧場の頭数ランキング

競走馬の生産牧場は、全国に約800あり、そのうち約90%が北海道にあります。

北海道の生産牧場

昨年(2020年)の生産牧場ランキング

順位 生産牧場名 獲得賞金 出走回数 1着数 1着率
1位 ノーザンファーム 1,633,596万円 5,171 627 12.1%
2位 社台ファーム 649,048万円 3,500 296 8.4%
3位 社台コーポレーション白老ファーム 185,961万円 1,086 91 8.4%
4位 ノースヒルズ 180,410万円 579 64 11.1%
5位 ダーレー・ジャパン・ファーム 133,191万円 661 63 9.5%
6位 下河辺牧場 118,062万円 835 56 6.7%
7位 三嶋牧場 110,421万円 593 53 8.9%
8位 グランド牧場 89,593万円 410 43 10.5%
9位 岡田スタッド 89,002万円 848 43 5.1%
10位 ビッグレッドファーム 76,656万円 718 37 5.2%

1位から3位までは、同じ社台グループの生産牧場です。日本の生産牧場は、しばらく社台グループの寡占状態が続いており、数多くの重賞レース(G1~G3クラスのレース)の勝利馬を輩出しています。

4位のダーレー・ジャパン・ファームは、アラブ首長国連邦の首相であるシェイク・モハメドが代表を務める生産牧場で、世界最大の生産牧場であるダーレーグループの日本法人です。

因みに日本は、アメリカ合衆国、オーストラリア、アルゼンチン、アイルランドに次ぐ世界第5位の競走馬生産国です。


生産牧場・育成牧場という義務教育を終えて、これからレースという名の社会に飛び出すというわけですね。

・・・そういうことだな。厳しい訓練を乗り越えて、競走馬としての能力を開花させた馬だけが、プロのレースに挑む。その姿は正にプロフェッショナルで、義務教育を終えても社会に出れない人間は、見習うべき点が多々あるはずだ。

ふーん。中卒なのにやりますね。私も誰かの夢や希望を背負えるよう、頑張って競馬しますね。

・・・くれぐれも、馬券には乗せないようにな。


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